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拍手小話(1) [拍手小話]

『ボクたちの年越し』

ボクたちは碁会所を後にして二人で歩き出した。

「大晦日に男二人なんてホント色気ないよな」

キミはふてくされたように言う。

ボクは少し笑う。

「キミ、クリスマスも同じ事言ってなかった?」

「そうだっけ?」

「うん。確か言ってたよ」

「という事はクリスマスも俺達一緒にいたっていうことだよな」

「ここまでくると腐れ縁もたいしたもんだよ」

「その言葉そっくりそのまま返したいよ」

「おまえが打ち納めしたいっていったんだろ!?」

「キミが負けたままじゃいやだなんて言うからこんな時間に

なったんだろう?」

「そういうならおまえだってそうじゃねえか!自分が負けたからって

その後何時間打ったと思ってんだよ。そのせいで碁会所

追い出されたんだろう?」

「ボクのせいじゃない!キミが悪い!!」

「俺のせいじゃねえ!おまえが悪い!!」

いつものようにボク達は睨み合う。

その時丁度除夜の鐘が聞こえてきた。

二人とも喧嘩も忘れて聞き入る。

「これで俺たちの今年も決定だな」

「喧嘩と囲碁の一年になりそうだね」

『新年』

「改めて、あけましておめでとう!」

アキラがヒカルに言った。

「おめでとう」

「キミは幾つになっても礼儀を覚えないね」

「親しき仲にも礼儀ありっていうだろう」

「新年早々説教かよ」

「ボク達は年下の者たちに模範になるような行動をしないと」

「俺が年上だってわかって言ってるんだよな?」

「キミは年上なんて思った事なんか一度もないよ」

「何だと!」

「だってキミ褒められるようなことした事ある?」

ヒカルはアキラに言い返そうと必死に考えた。

「俺にだって・・・・」

そう言いかけたものの頭に浮かんでくるのは

目上の者に敬語がなってないとか

遅刻常習犯だとか言われた事しか浮かんでこない。

「ほら、ボクの言った通りだろう」

「・・・・おまえなんていい子ぶってるけど俺の前じゃいい性格してるくせに!」

「キミの前だけはね」

「こいつ開き直りやがった!」

「みんなにその性格の悪さをバラしてやる!」

「やりたければやれば。キミの言う事とボクの言う事

どっちを信じると思う?」

「くそっ!!」

『初打ち』

「結局初打ちも毎年おまえとかよ」

新年を迎えてヒカルとアキラは二十四時間開いてる碁会所にいた。

こんな時間にも関わらずギャラリーが多い。

それもそのはずで毎年年明けすぐにこの碁会所で打っているので

その噂を聞きつけて年々二人を目当てに観に来る客が増えていた。

若手で有名な二人見たさに女性客も多かった。

「塔矢三段、写真で見るより素敵じゃない」

「私は進藤ヒカル初段の方がいいと思うけど」

そんな声が聞こえてくるとアキラは凄く不機嫌な顔になる。

「塔矢、おまえイメージ悪くなるぞ」

ヒカルは小声で言った。

「・・・・・」

アキラは無言で俯く。

「まあ、俺は別に構わねえけど」

「キミの鈍感さに腹が立つよ」

「何だよ、俺に当たるなよ。いくら囲碁に集中できないからって」

「ボクはどんな騒音の中でも集中を切らさない自信はある」

「じゃあなんでそんなに機嫌悪いんだよ」

結局帰るまでアキラの機嫌は直らなかった。


「塔矢、いい加減に機嫌直せよ。ファンが減るぞ」

「ボクはファンなんて興味ない!」

ヒカルは全く理由がわからなかった。



「・・・・・キミが女の子に褒められた事が気に入らないなんて

言えないよ」


ヒカルに聞こえないくらいの声で呟いた。

『初・・・?』

「おまえさちょっとはニコっと出来ない?棋士だって客商売だろ?」

「ボク達は芸能人じゃない。それに男がやたらニコニコなんて

締まりなさ過ぎる!」

「おまえってそういうとこ頭固いよな。昭和一桁か?」

「キミがへらへらし過ぎなんだ!」

「俺のどこがへらへらしてるんだよ!?」

「さっきだって女の子にキャーキャー言われてみっともない顔して」

「男だったら嬉しいだろう。おまえは違うのか?」

「生憎女性なんかに興味ないよ」

「もしかして初恋まだなのか?」

「キミに関係ないだろう!」

「図星かよ」

「じゃあ、キミはあるの?」

「う~ん、誰だろう?担任の先生かな、あかりじゃないし」

アキラは具体的な名前が出てきてムッとした顔をした。

「へえー、気が多いんだね、キミは」

「おまえみたいに思い浮かばないよりましだろう!」

その言葉にアキラは俯いて何も言わなかった。

「なんだよ、そんなに怒らなくてもいいだろう。本当に

冗談の通じねえやつ・・・」



「言えるわけないだろう、初恋の相手がキミなんて」

アキラはその言葉を飲み込んだ。














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