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消せない想い [短編]

「天国、いや極楽ってあると思う?」

出張先に移動中に唐突にヒカルは言った。

目を丸くしてアキラはヒカルを見る。



「キミがそんな事を気にするなんて意外だな」

少し呆れたような顔。

言葉を待たずに続ける。

「地獄に行くのが怖いのか、まさか」


「・・・別に俺が何処に行くかなんてどうでもいい。

ただ、俺は・・・・」


あいつ(佐為)が極楽とやらで笑っていたらいいなと

思ったんだ。

その言葉は口にしなかった。

何故余計な事を言ってしまったんだろう。

きっと搭矢は勘繰るだろうに。


他の奴といる時はこんな事はないのに。

それだけこいつが俺の警戒心を解いてしまってるという事かもしれない。



「?」

怪訝な顔で見ている。



「キミは時々突拍子もない事を言うな」


「・・・・・・」


何か言えばボロが出そうだ。


「それはそれでキミらしいが」



キミの口の堅さは知ってる。

だからこれ以上問わない。

だがそれはキミが生まれた今日だから。


だけど明日からは手加減しない。

アキラは一瞬だけ拳を握りしめた。













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流れない水と消えない想い [短編]

ヒカル・・・

貴方には輝く未来が待っているのですよ


私の事を忘れずにいてくれるのは

とても嬉しいですが

前を向いて歩いて欲しい。



俺はいつまでたっても

十四歳のままなんだ。

佐為が消えたあの時から

止まったままだ。


心が体の成長に追いつけないままだ。



流れない水は腐ってしまう。

貴方はそうなってはいけない。



なんと皮肉なことか

朽ちる事のできない私と

前に進めないヒカル。



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想い [短編]

何もなかった俺に戻るだけ

普通に進学して普通に就職して

普通に・・・誰かと結婚して

子供を設けて孫が出来て・・・

ああ、いい人生だったなって

思いながら死んでいく。



普通って何だよ!


俺はそんなもんどうだっていい!!


これからの人生全部とっかえて

俺はもう一度あいつに会いたい・・・

会いたいんだよ!




久しぶりに昔の夢を見た。


息をすることも忘れるくらい。

あいつでいっぱいだった。

あいつが居なくなって

夢と現実がぐちゃぐちゃだった。


認めたくなかった

もう会えないというどうしようもない残酷な現実を。




それでも時は流れていく

俺がそこから動けなくても。







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父、塔矢行洋 [短編]

ボクの絶対的存在であった人物は父だった。

物心ついた時から父を目指し、越えたいと思っていた。


語るよりも目で示唆する。

言葉にするのが不器用な人。

いや、言葉など必要ないと思っているのかもしれない。

それでいて冷たいわけでなく

正しい道に導こうと考えてくれている。


しかし、そんな関係が少しずつ変わってきている。

タイトルを惜しむことなく自由に打つ為に手放した。

そんな父に疑念を抱いたこともあった。

思い切って『どうして?』と

問おうとしたが止めた。

その時、ボクは父とボクは違うのだと知った。

理由を聞いてもボクには理解できないかもしれない。


ボクとお父さんの間でお母さんは懸け橋になってくれている。

 
「アキラさん、お父さんが聞いていらっしゃったわ。もうすぐアキラの

誕生日だが、何を贈ったらいいだろうかって?」

久しぶりの母の声に懐かしさがこみ上げてくる。

中国に行ってから随分と時間が過ぎていた。


「別にこれとって欲しいものはありませんが」

申し訳ないが本当に今欲しいものはない。

「私もそう言ったのよ」

「お父さんはそういう事は余り気にしない方ではなかったのに」

「現役の頃は必要以上にお互い棋士という事を事意識なさっていたから

それがなくなって何かを贈りたいと思ったのでしょうね」

「では、今度こちらに戻られたら食事をしましょうと

伝えてください」

「ええ。そう伝えるわね。アキラさん、くれぐれも体に気を付けて」

「はい。お母さんも気を付けてください。お父さんにもよろしく」


父は携帯電話を持っていない。

多分持っていたとしても自分では電話はしないだろう。


父は囲碁以外は無頓着だ。

母のサポートがなければ到底暮らしていけない。

少しだけ羨ましい気がした。

自分の時間をすべて碁に費やせる。


ー十二月十四日ー

対局が終わって帰宅しようとすると携帯電話が震えた。

「?」

と思って見ると母の携帯電話の番号だった。

何かあったのでは?と少し不安になりながら出ると

意外な人の声がした。


「・・・アキラか?」

「お父さん?」

もしや母に何かあったのではと驚いた。

父にもそれは伝わったらしい。

「明子も私も特に変わりない。年末にはそちらに帰るので

その知らせだ」

母でなく父が?

「・・・・おまえは小さい頃から茶碗蒸しが好きだったから

日本料理の店を明子に予約を頼んだ」


不器用な父らしい・・・。

思わず笑いそうになった。

多分、自分のせいでボクが囲碁の世界に入ったのではと

気にしているのだろう。


「ありがとうございます。楽しみにしています」

今までの父とは少しずつ違ってきている。

その父も以前の父もボクは好きだ。








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欠片 [短編]

バラバラだった欠片がひとつになったような気がした。


毎年繰り返す後悔と心の痛みと

自分でもどうする事もできない虚空感。


そんな時、無言で支えてくれたのは他ならぬ塔矢だった。

何も聞かず慰め言わず行動と態度で前へ進めと引っ張ってくれた。

頑なだった俺の心を少しずつ溶かしてくれた。


俺だけが知ってると思っていた佐為は多くの人に

欠片を残していた。

俺はその欠片を集めるように多くの人たちと対局した。

その度に何かが戻ってくる気がした。


そして今、塔矢との対局を終えて形としては存在しないけれど

佐為が戻ってきたのだと思った。



お帰り、佐為。


俺、頑張ってきたの見てくれてた?






今年もか・・・・ [短編]

今日は一月十七日か・・・・


緒方はいつものように不機嫌な顔で目を覚ました。



別に今更誕生日をどうこう思うような年じゃない。


だが、出来れば今日は家で居たい。


しかし、仕事が入ってる。



そもそも俺が朝っぱらからグダグダと考えなきゃならないんだ!



去年、変に気を回して進藤がライターをくれた。


だが、えびたい方式で


メシを食わせた。



それは後でぐちゃぐちゃ言われたくないからだ。


それ以上何の感情もない。



芦原からあいつの誕生日を聞くのは嫌だった。


あれこれ詮索されるのは分かっていたからだ。


しかし、


『俺、何も貰ってない!』


と言われたくなくて適当に買ってやる羽目になった。



まだ、進藤が覚えているかどうか


疑問だが今日は出来るだけあいつと顔を合わせないようにしよう。


それが無難だ。



アキラくんはそういう形式的な事は好まない。


師匠(せんせい)は俺の誕生日など知りもしないだろう。



いや、とりあえず芦原を捕まえて口止めした方がいい!



緒方は慌てて身支度を整えると愛車に乗って日本棋院に向かった。




車をいつもより雑に止めて芦原を探した。



幸運にもエレベーターの前で見つける事ができた。


「芦原」


「あっ、おはようございます!緒方先生」


いつものようにニコニコした顔で芦原は言った。


緒方はこいつは体調不良とか機嫌が悪いとか


そういうことはないのか?


ある意味尊敬に値する。



「芦原、頼みがあるんだが・・・」


とにかく今は口止めだ。



芦原はきょとんとした顔で緒方を見た。



意を決して言ったが


芦原は笑いながらこう言った。



「すいません。昨日、進藤君に言っちゃいました・・・」


悪ぶる様子もなく・・・・。



遅かった・・・・。


俺は魚の世話もそこそこに車のあんなに雑に止めて


何をやってる!



こいつが本当に憎らしい!!



そんな事を考えていると後ろから声が聞こえた。



「緒方先生、今日誕生日だよな?」



会いたくないと思っていた進藤が赤いリボンがついた


小さな小箱を持って立っていた。



今年もか・・・・。


緒方は頭を痛そうに押さえた。




お墓参り [短編]

「つき合わせて悪いな」

アキラは水桶を持ちながら言った。

「いや、俺達結婚したんだし」

ヒカルは墓花を抱えながら少し照れ臭そうに言った。

「それはそうだが・・・」

「おまえん家の墓はやっぱりハンパないな」

墓の中でもひときわ目立つ大きな墓石を見ながら

ヒカルはやっぱりと納得した。

「最近はあまり来れないからご先祖様に申し訳ない。

父が向こう(中国)に言ってからボクがやらなきゃいけないんだけど」

「棋戦で忙しくてろくに休みもないし仕方ないさ。俺だって両親に

任せぱなしだ」


「ボクらは将来どうする?自分達だけのお墓を立てる?」

「・・・・そんな事まだまだ先の話じゃないか」

ヒカルは少しドキッとしながらそれを出さないように

注意しながら言った。

「そうは思うが・・・・」

「言っちゃ悪いが墓はいつか墓守が居なくなったら

無縁になっちまうけど形は無くなるけど心は結ばれてるから

俺はそれでいいと思う」

「ボクはそれでも形を残したいんだよ。キミと歩いた証が」

おまえは知らない、

俺がいずれ居なくなる事を。

「でもさ、俺達は子供が居ないから二人とも居なくなったら

誰も来てくれないだろうな。二人ともひとりっこだしな」

「キミは子供が欲しいのか?」

「・・・いや、居ても構ってやれないだろうし。おまえの子供なら

見たいけど」

「キミが産むわけにもいかないし、ましてボクが産むのも無理だね」

アキラは小さく笑った。

同性で子供は望めない。

手段がないわけではないが。


ヒカルの頭に不意に浮かんだのは

佐為に身内が居なかっただろうかという事だ。

もしかしたら母親が違う兄弟が居たかもしれない。

もっと聞いておけばよかった。

それともうひとつ佐為が言っていた事を思い出した。

『あながち私達は繋がっているかもしれませんよ。ヒカルの姓の進藤の藤は

藤原の藤なんですから』


一ミリでもいい!

おまえと繋がっているのなら。


V.D(2) [短編]

「今年もですか・・・・」

事務局の一人がうんざりしたように言った。

「もう大丈夫だろうと思っていたんですけどね」

相手の男も呆れたように言った。

続々と積み上げられていくダンボール箱に二人は

大きなため息を落とした。


毎年、送られていたチョコレートはアキラが結婚を発表した事により

激減するだろうと考えていた。

しかし予想に反し去年より増えている。

そして今年に限り大きく変化した事がある。

アキラとヒカルに送ってきた主が男性からのものが倍増した。

加えて言えばヒカル宛ての物の送り主が男性が半数近い。


「進藤棋士は男性にもてますね」

「ええ。塔矢三冠は女性からの方が多いですがね」

二人のやり取りを聞いていたアキラが声をかけた。

「今年もご迷惑をおかけしているようで申し訳ない」

「とんでもない!」

「そうですよ。これも仕事のうちですから」

二人とも取り繕うように慌てて言った。

「・・・・ところで今聞いていたら進藤に送ってきた相手が

男性が多いとか」

「ええ。半数以上・・・」

それを聞いた途端、アキラの表情が激変した。

まさに鬼の形相になった。

「塔矢三冠・・・?」


「・・・・ボクが進藤の分も持って帰ります!」

アキラは何かを必死に堪えているようだった。

だが出来る限り穏やかな表情をしようとするが

少し引き攣った顔で笑った。


「ですが凄い量ですよ」

「大丈夫です!!」

そう言うとアキラは自分の分ではなくヒカルの分を

自分の車に運んだ。

その様子を事務員は呆気に取られてただ見ていた。


冗談じゃない!!

進藤に男からチョコなんて・・・。。

きっとメッセージ入りもあるに違いない。

アキラは帰る途中、何度かヒカル宛のチョコを川に投棄しようと

考えたが何とか止まった。


しばらくヒカルにチョコの事を伝えずにアキラはクロゼットの奥に

押し込んだままだった。






ボクは見えるものしか信じない [短編]

「ボクはそんなものは信じない!」

「ふーん!何か夢が無いって言うか面白味のねえ奴」

棋院の帰り偶然一緒になったアキラとヒカルは

取り留めの無い話をしながら歩いた。

「大体、O型がこの世界に何人いると思うんだ?

みずがめ座は?そんな少ない選択で運命が決められるなんて

それこそ面白くないじゃないか」

「おまえって・・・もっともらしい意見は言うけど

余裕が無いって言うか」

「とにかくボクは見えるものしか信じない!大切な事は自分が

見定めて決める事にしている」

「じゃあ、おまえって愛とか信じないんだ?」

「愛は見えるじゃないか?」

「何で?」

「その人を大切に思う事が愛だよ。自分に何ができるか。

相手も同じように感じてくれているならきっと仕草に出るし」

「なんか理屈っぽいなあ・・・」

「だからボクはキミを信じる!ボクがボクの目で見たキミを」

「・・・・おまえって人が口にしにくい事をあっさりと言うよな」

「それがボクの中での真実だからだ」




緒方先生お誕生日おめでとうございます!! [短編]

「はい、これ」

ヒカルはぶっきらぼうにマッチ箱くらいの大きさのものを

緒方にすれ違い様に渡した。

「何だ、これは?」

「別にたいしたもんじゃないよ。今日緒方さん、誕生日なんだろう?」

「どうしてそんな事知ってる?」

緒方の目が険しい。

「別に探ったわけじゃないよ。塔矢の碁会所で芦原さんが

話してたのを偶然聞いたから」

「あのおしゃべり野郎が!」

受け取ったものが形が変形するくらい握り締めた。

「ひでえな。折角包んでもらったのに」

「・・・・何のつもりだ?」

「別に、誰にも何ももらえないと思っただけさ」

「勝手に決め付けるんじゃない!」

「じゃあ、誰かに何かもらった?」

「・・・・・・」

緒方は睨んだまま何も言わなかった。

そのまま自分の車の方に歩いていった。


「礼くらい言ったら?」

ヒカルは追いかけてきた。

「強要するくらいなら返す!」

緒方は付きかえした。


「要らないよ!俺タバコ吸わないし・・・」

その言葉で中身はライターだと分かった。


こいつの行動パターンが理解できん。


「塔矢も薄情だよな。知ってるくせに何もあげないなんて」

「アキラくんは自分の時に断り易いから最初からそんな事は

しないのさ」

「何か事務的だな」

「おまえみたいに打算的じゃないのさ」

「打算的?」

「どうせ飯でも奢らす気だろう?」

「それこそ考えすぎだよ」

「いいや、飯に行くぞ。後で何を言われるかわからんからな」

緒方は強引に腕を引っ張って車に放り込んだ。


「いてっ!!」

ヒカルは頭を天井にぶつけて痛がっている。

そんな事はおかまいなしに車は発進した。


「ちゃんとシートベルトをやれ」

「自分が急発進したんじゃないか」

「知り合いにでも見られて余計な詮索をされたくない」

「じゃあ、そこで下ろしてくれよ」

「うるさい!黙って座ってろ」

「酒も飲んでないのに目が据わってる・・・」


しばらくしてとある高そうな料亭に着いた。


「こんな高そうなとこ遠慮するよ。服もこんなんだし」

「余計な事だ。行くぞ!」

緒方は慣れた様子で中に入っていった。


ー二時間後ー

「半分、俺が出すよ」

食事を終えて精算の所でヒカルは言った。

「おまえみたいなガキが払える金額じゃない」

「だからって・・・」

「俺に恥をかかせる気か?」

「・・・・・」

ヒカルは渋々財布をポケットに戻した。



車に中で緒方は呟いた。

「自分の誕生日にどうしてガキに飯を食わせなきゃいけないんだ?」

「だからいいって言ったんじゃないか」

「うるさい」

「緒方さんは都合が悪くなると『うるさい』って言うんだね」



「まあ、おまえみたいなガキでも一人で飯を食うより

ましだったがな」

独り言のように緒方は小さな声で言った。







あとがき

結局、緒方さんはヒカルに振り回される運命なんでしょうか?

幸せにしてあげたかったんですが・・・・。

急に思いついた話なので荒いですがよければ楽しんでください。


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