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ANOTHER STORY(48) [長編]

「くそっ!」

自分ではどうする事もできない流れ落ちてくる涙に

悔しそうに呻くそうに言い捨てた。


アキラの蔑む様な目が悔しかったわけじゃない。

強引に関係を結んだ事が許せなかったわけじゃない。


自分の心がアキラに寄り添おうとしていた事が

ショックなのだ。

決して嫌ではなかった。

寧ろ自分が満たされていく事が不思議だった。

緒方に抱かれた時には感じる事のできなかった感情が

自分の中に生まれていくのが分かったのだ。

それでもそれを認めるわけにはいかなかった。

流されるわけにはいかない!


何を犠牲にしても佐為を取り戻したい。

それが唯一生きる目的だから。

それが残酷に佐為を消してしまった自分ができるただひとつの償いだから。


だからアキラの気持ちに応えられない。

惹かれている気持ちを知られるわけにはいかない。






ーとあるスナックー

「緒方先生、僕は悪い人にもいい人にもなれないようです」

白川は珍しく少し酔っていた。

「・・・・・・」

その横に座っている緒方は憮然とした表情で見る。

自分が記憶する限り白川が酔って誰かに絡むところなど

一度も見た事がない。


「何て顔で見るんですか?僕だって人間ですよ。酔いたい時だって

ありますよ」

反対の光景なら何度もあった。


「・・・・・塔矢くんに進藤くんの本当の気持ちを教えてあげれば

二人とも楽になれるのを知っていながら僕はそれをしない。

やっぱり二人が幸せになるのは許せない!酷い人間だ」

「それなら俺も同罪だ」

緒方はグラスのブランデーをぐっと流し込んでボソリと言った。


「・・・・・進藤くんを大切にしたい気持ちは本当なのに

いや、もしかしたら自分のものにならないのなら不幸になればいい、

そう思っているのかもしれない」

自分に嫌気が差したように俯く。


「白川、人間って奴はそんなものじゃないか?それに俺たちがその事を

アキラくんに教えても意味がないと思う。本人が気付かない限りな」


「・・・・・・」


「みんなが幸せになるなんて安っぽい本の中だけだ。

誰から幸せになればその陰悲しむ人間がいる」

緒方は徐に立ち上がった。


「同類で傷を舐めあうか?」

「いいえ。止めておきますよ。それこそ誰も報われない」

口元だけ笑みを浮かべる。














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